流行り病
ちかごろ、私の周りで流行っている病気がある。
それは坐骨神経痛。警備員によくある症状だ。私の周りにも症状が出ている隊員、それが原因で仕事を休む隊員がすごく多くなってきている。
私もどういうわけか、この流行に乗ってしまった。
最初は弱い痛みから始まり、多少のガマンでなんとかなっていたが、次第に鎮痛剤に手を出すようになり、ついには強い痛みが出て100mぐらい歩いたら休憩しないとその先歩けないくらいにまでなってしまった。
現場でも強い痛みが出て他の隊員に迷惑をかけてしまい、実はここ1週間ほど休みが続いている。
私は基本的に体が強くはなくて、いろんな病気で仕事を休むことがある。ただ、今回の「坐骨神経痛」はやっかいきわまりない。「こうすれば治る」という方法が決まっているわけでもなく、「だいたいこのくらいで治る」というメドもつかない。
日当いくらで仕事をしている私たちとしては、こういう流行には乗りたくないものだ。
* * * *
同僚のやっさんはこの流行に乗っちまった。坐骨神経痛で二週間ほど休み、先日仕事に復帰したばかりだ。私は歩いてくるやっさんを観察したが、歩き方も以前となんら変わりはない。しっかりとした足取りでいつもどおりにやってきた。どうやら痛みはほとんどないようだ。
私は流行に乗り始めたころで、なんとか鎮痛剤の力を借りて仕事をしていた。そして私の興味は
「やっさんがどうやって坐骨神経痛を治したか」
にあった。私は喫煙所で「わかば」をふかしているやっさんに近づき、胸ポケットから一本抜いて火をつけて話しかけた。
「やっさん、具合どうなんすか?」
「んん、まあ、まあまあだな。痛みもねえしよ」
「どうやって治したんすか?」
「んー、オレの場合は…効いたのは風呂と、整骨院の電気だな」
「風呂と電気ですか…」
「一日二回風呂入って温めてな。ハリはいまひとつだったなあ。電気が効いたよ。うん」
「そうですかあ。ありがとうございます。参考にします」
この会話のあと坐骨神経痛がひどくなったオレは、やっさんの治療法を参考にすることにした。
* * * *
私が治療に選んだのは、やっさんが行った鍼灸院でもなければ整骨院でもない。カイロプラクティックだった。歩行に支障をきたしていたため、自宅に近いカイロプラクティックを選んだ。
「お風呂とかは長いですか?」
カイロプラクティックの先生は私にこう聞いてきた。
「いや、そうでもないです」
「炎症が強いですから、今は長風呂であまり温めないほうがいいです。歩いたりして痛くなったら氷で10分ぐらいきっちり冷やしてください」
(やはりそうか…)
坐骨神経痛の治療というのは、その人に合ったからといって別の人にも合うとは限らない。信頼のおけるところで見てもらって指示してもらうのがいい。そういうものだ。
実は私はやっさんの話を聞いて、やっさんの逆を行くことにしたのだ。やっさんが行ったような整骨院でも鍼灸でもなくて、カイロプラクティックへ。温めるのか冷やすのかという問題もどうやら逆が正解だったようだ。
「抜け目のやっさん」。これが競馬好きのやっさんのニックネームだ、。やっさんの競馬は、買い目を外した目がいつもくる。わざと外してるんじゃないかと思うくらい、外した目が来る。
とりあえず、やっさんの買い目は外すのがセオリーなんだよな。
ただ、私の買い目が当たるかどうかは、この後の経過次第だ。
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