警備員虎の巻

~Guardman's bible~

ファンタスティックに声をかけろ

交通誘導警備という仕事は、見方によってはこうもとれる。

 

「通りすがりの見知らぬ人たちに声をかけ、お願いし続ける仕事」

 

実は私は自分の仕事をこういうものだと思っている。

 

何も歩行者誘導に限った話ではなくて、車でも同じことだ。車を運転しているのは人間で、その人間に合図を送り、お願いし続けている。

 

見知らぬ人にいきなり声をかけるわけだから、当然だけれどそれなりの礼儀というものがある。

 

例えば、何の前振りもなく、いきなり「どうぞ」なんて声をかけるような誘導をする人もいるが、それだとお世辞にも礼儀正しいとは言いがたい。

 

基本的にまずはあいさつと御礼から入る。朝なら「おはようございます」と声をかけて頭を下げる。ここで大事なのは顔と態度だ。仏頂面で尊大な態度でやっても意味はない。

 

「あなた方の安全を守るためにお声がけしていますよ」

 

というような、さわやかな笑顔と声色、動作が大事だ。

 

と、ここまで書いて気づいたのだが、これって何のことはない、コンビニや飲食店などで聞く

 

「いらっしゃいませ、こんにちは」

 

と言う声がけと何も変わらない。コンビニあたりだとなんの感情もこもっていないマニュアルどおりのあいさつだけをされることがよくあるが、それでは声をかけられた方は何の感情も生じない。

 

コンビニや飲食店とわれわれの違うところは、こちらは間に金銭も商品もなく、ただただ「お願いする立場」にあるってところだ。私たちと通りすがりの通行人は五分の取引をやっているわけでは決してないはずだ。

 

そういうことから考えても、少なくともコンビニで聞く「いらっしゃいませ、こんにちは」よりはファンタスティックな声がけをすべきなんじゃないだろうか。

 

* * * *

 

以前一緒に「ヨシさん」という警備員と仕事をしたことがある。

 

企業の引越しの警備で、ヨシさんとオレはオフィス街でひたすら歩行者を誘導していた。

 

ヨシさんはお人柄は温厚でいい人なのだが、なんとも恥ずかしがり屋で声が本当に出ない。「こんにちは」の挨拶もなにもなくボソボソとつぶやくようにしゃべり、動作もなく、固まったままだ。これではうまくいくはずがない。何度も通行人に入れてはいけないところに入られてしまっていた。

 

(困ったなあ…)

 

オレはそこで一計を案じた。名づけて「かわいい娘には声を掛けろ作戦」だ。ヨシさんてのは恥ずかしがり屋だが、無類の女好きでキャバクラが大好きだ。私はこれを利用しようと考えた。

 

私は歩道の入り口付近にいるヨシさんに歩み寄った。

 

「ヨシさん、もうみんなに声かけろとは言わない。キレイなおねえさん来たら、しっかり声かけよう。『こんにちは、こちらへどうぞ』って笑顔で誘導しようや」

 

オレは身振り手振りで実際にやって教えてみた。

 

「了解!」

 

ヨシさんは敬礼すると急に元気になった。鼻息も荒く、すっかり声をかける気になったようだ。キレイなおねえさん限定ではあるが。

 

しばらくすると、さすがはオフィス街でベージュ系のスーツを着込んだキレイなOL風のおねえさんが通りかかった。佐藤江梨子に似た感じで黒髪ストレートがお似合いだ。

 

(きたきた)

 

ヨシさんがいつ声をかけるかと見守る。佐藤江梨子がどんどんと近づいてくる。そしてついにヨシさんの横を通り過ぎてしまった。なぜかヨシさんは相変わらず固まったままだった。いや、むしろ今まで以上に固まっていたような気がした。

 

「ヨシさん、今の声かけなきゃダメでしょ!」

 

ヨシさんのところに駆け寄って問い詰めると、ヨシさんはこう答えた。

 

「ゴメン、ちょっとキレイすぎてビビっちゃった」

 

コ、コノヤロウ…

  

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